タイトル:AI VS. 教科書が読めない子どもたち
著者:新井紀子
タイトルからして私的にど真ん中の内容であろうことが予感され、実際に読んでみればやはり、ど真ん中の内容でした。
私が問題発見解決力に関する知の動きを考えている過程で、これはどれもこれも今のAIでは実現できない、本質的に別だという直感がありました。
また以前、一つの脳細胞のように単純な処理をするプログラムを、脳のように繋いで並列に動かしたら脳みたいなものができるのでは?なんて事を考えて色々やってみたことがありましたが、早々にいくつかの理由で今の科学では無理だという結論になりました。
これらの経験から最近のAIへの世間の認識に疑問を持っていました。騒ぐ必要がない事で騒ぎ、騒ぐ必要がある事で騒いでないと。
当然私の理由とは違いますがその事をロジカルにわかりやすく書いてありますし、山奥で自給自足の生活でもしない限りAIによる影響を受けるので、読むべき本だと思いました。
この後は内容について突っ込んだ話を書いてますので、先に読みたい方は離脱推奨です。
AIが近い将来人間の能力を超えるシンギュラリティがやってくる、なんて話があるようですが、AIの仕組みを知ったらそんな結論にはならないです。
この本ではAIとは言っても結局プログラムであり、プログラムは計算が出来るだけでその元となる数学が知能の全てを表すことができない、という限界を示しています。数学とは具体的には論理、確率、統計のことです。
ディープラーニングなどの最新の技術は確率や統計を利用しており、これにより今まではできなかったような事が出来るようになりました。それは確かにすごい事なのですが、人間の知能を実現するにはまだ部品が足りないのです。
私はなるほど数学か!と納得しました。
これまで数式を処理させるというよりは、ある手続きをコンピュータ上で実現させるためのロジックをプログラミングをしていたので、その視点を忘れていました。
(広い意味でいえばそれも一種の数式と言えるのでしょうが、泥臭いものでとても数式と呼べるものではありません)
ちなみに、私が脳細胞を模したプログラムを考えた時に感じた限界は二つありました。
脳細胞について詳しいことが分かっておらず、プログラムで再現できないこと。また、脳に入ってくる信号についても詳しいことが分かっておらず、入力データが作れないということです。
まあ数学的アプローチにしろ工学(生物学?)的アプローチにしろ、部品が足りないことは明確なわけです。
なので、現状のAIをどれだけ進歩させようが、計算機の処理速度が向上しようが、人間の知能の一部を切り取ったものが強化されていくだけで、人間の知能全体は実現できない事になります。
でもだからといって、安心はできません。
その知能の一部とはなにか、解き方がわかっている問題とはなにか。
この本では読解力に焦点をあて、係り受け、照応、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定を問う問題をAIと人間に解かせてその結果を比較しています。
AIでも係り受けと照応は8割は正解するそうですが、これが何を意味するかというと、限定された条件(フレーム)の中で答えを見つけるという事と、丸暗記は得意ということです。
逆に同義文判定以降は「意味」がわからないと解けないのでAIは苦手なようです。意味はメタな認知ができないといけないですから当然ですね。
恐ろしいのはここからです。
人間の回答状況がどうだったのかというと、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定についてはランダムに回答したのと変わらない人が多いという結果でした。
すなわち、多くの人がAIとの差別化ができていないということです。
確かにこれは思い当たるふしがあって、書いてあることを表面的にしか理解できてなかったり、類推すればわかるようなことがわからなかったりというケースは社会人でもよく見られます。
最近急激に増えた、という印象もありません。
これまではそれでもできる業務が存在して、世の中が回っていたわけですが、そういう人や決まった手順をこなすような業務はAIに取って代わられる、そして多くの人や業務がその対象となる、ということです。
AIやプログラムの特性からそうなるだろうと私も推測していたのですが、読解力テストという形で証明されました。
そしてこの解法をひたすら覚えて当てはめるとか、丸暗記といったAIが得意そうな事を行なって「勉強」としているのは私が現役の頃からあって、現状を鑑みるにまだ続いているのだろうと思います。
プログラミング教育を始めると言ってますが、この状態だとプログラミングの中でもAIに取って代わられるような内容だけしかできない人が量産されます。
そんな子供達が大人になって社会に出たら、職にあぶれるか低賃金の仕事しか残ってないわけです。
そんなの酷すぎる。機会を潰している。低賃金は社会保障で補ってとかそういう事ではないです。
私がプログラミング+問題発見解決力にこだわる理由がここにもあります。
今回はこのあたりで。
個人的には私の考えを補強・証明していただき大ヒットではありますが、特に子供がいる方々にはぜひ読んで欲しい本だと思います。
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